有限会社キングホームの取締役営業本部長として、もっぱらマンション転がしを生業としていたO氏の年収は、会社から支払われる正規報酬だけでも三千万円を軽く超えていた。といっても、当時の不動産業ではけっして珍しい収入額ではない。基本給は三十万円だが、歩合がとにかく大きい。物件を売買すれば仲介手数料が支払われるが、そのうち一割が歩合としてO氏の懐に入る。五千万円の物件を仲介すれば、百万円程度はだまって入ってくる。
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さらに、会社には内緒で個人的な売買も行なっているのだから、いったい自分の収入が全部でいくらになっているのかはO氏本人にすら分からない。いちいち覚えてなどいられないのだ。ここの家は正確にはO氏のものではない。会社から借りたものだ。しかし、いずれは購入してもいいと思っているくらいだし、なにせ年収が三千万円を超えているのだから、借家暮らしをしているといった意識がO氏になかったとしても、それは当然だろう。一戸建の庭つき住宅、高価なペット、高級家具調度品、そして若い妻、元気な娘。サクセスストーリーを彩るあらゆる道具立てと家族の存在が、O氏の幸せの大きさを示していた。当時、バブル経済に躍る不動産屋の一人だったO氏は、取締役営業本部長の肩書きのもと、若い社員を激励しながら、自分もせっせと物件情報入手にいそしんでいた。書類に判子を押すだけで、百万単位のカネが入ってくるのだからたまらない。すぐに物件が捌けなくても心配することはない。相手には手付け金しか払っていないし、相手もそれで納得している。どうせ少し待てば物件は間違いなく高値で売れていくのだ。